子どもの頃に、庭でアゲハ蝶の終齢幼虫を見つけて、2Lのペットボトルを切って作った簡易容器にみかんの葉とともに入れていました。何日か経った頃、ペットボトルをのぞくと幼虫の姿がないので大慌てをした覚えがあります。
私の身長が届かない天井の柱にゆらゆらとぶら下がっているのを確認することができました。そこから、蛹になって羽化まで無事に成功し、力強く羽ばたいていく姿を目にすることができました。では、いったいなぜアゲハ蝶は蛹になる前に長い距離を移動する必要があるのでしょう。
そこで今回は、アゲハ蝶の蛹と羽化について紹介していきたいと思います。
アゲハ蝶は蛹になる前の時期に移動する?
アゲハ蝶を育てたことがある経験のある人であれば、すぐにピンと来ると思います。
では、いったい蛹になる前に移動する必要があるのでしょうか?アゲハ蝶の成長の過程の流れととも移動する理由についても説明していきます。
そもそも「蛹」って何?
昆虫の中には、幼虫と成虫で姿がほとんど同じもの(無変態)もいれば、翅の元が幼虫の頃に表面に見られるもの(不完全変態)と、そうでないもの(完全変態)もいます。
アゲハ蝶は完全変態という成長過程を辿る昆虫で、1齢幼虫、2齢幼虫、3齢幼虫、4齢幼虫、5齢(終齢)幼虫、前蛹、蛹、羽化を経て蝶へと変身します。種類よって食べる植物が異なっており、アゲハ蝶は、柑橘類の樹木の葉の上で目にすることが多いです。
私はこれまでに、キンカン、柚子、レモン、ミカン、山椒の葉の上でアゲハ蝶の幼虫を見かけました。モンシロチョウの幼虫はキャベツの葉の上にいるのを目にしたことがあります。このように蝶の種類によって棲み分けをはかっているため、お互いの存在を脅かすことがないのです。
蛹は蝶になるための準備期間で、エサを食べることもなくなり、ただひたすらに同じ姿勢でじっとしている状態です。
アゲハ蝶が「前蛹」になる時期は?
「前蛹」とは蛹になる前の時期のことを言い、この頃には体長は大きいもので5㎝くらいになっていることが多いです。個体差はありますから、5齢幼虫であってもこれよりも小さなものも存在します。
ちなみに、1齢幼虫~5齢幼虫になるまで約1ヶ月、前蛹の期間は約2週間です。この時期になると、ひたすら蛹になるためのベストな場所を求めてひたすらウロウロとさまよい歩く姿が目に付きます。
私たちが想像も絶するような長い距離を移動することも珍しくありません。適当な場所が見つかると、蛹になる前の日に体を軽くするために軟便のようなものを排泄します。野生の個体であれば木の枝やコンクリートなどで、蛹になるための固定作業を始めます。
まず口から糸を吐き尾部を固定し、続いて胸部あたりを右と左の2ヶ所で固め、3ヶ所によって自分の体を支えています。ちょうど頭部を「く」の字に折り曲げてハンモックに吊られているような状態です。
アゲハ蝶の蛹に見られる特徴
前蛹と呼ばれる段階から蛹になるまではあっという間で、「く」の字になっていた黄緑色の5齢幼虫の姿はそこにはありません。そこには、褐色や緑色の周囲の環境に近い色をした蛹になっています。もちろん、これは自分の身を守るために、周囲の色に溶け込ませようとしているのです。
アゲハ蝶の蛹は、アルファベットのMの両端を左右に引っ張り、それぞれの先端から二等辺三角形を描くように線を引いたような形をしています。胸部のところは他の部分よりも少しだけ突き出たようにしているのでとても特徴的です。
蛹になりたての頃は、透き通ったような色をしていますが、時間の経過とともに表面がカサカサとしたような感じになってきます。
アゲハ蝶の蛹はいつ羽化するの?
蛹は成虫になる前の段階ですから、早く成虫を見たいと心躍る気持ちは誰だって同じです。羽化する前には、どんなサインを目にすることができるのでしょう。また、羽化した後は、どれくらい生きることができるのでしょうか?
この2つの質問について、回答していきたいと思います。
アゲハ蝶の蛹が羽化するサイン
蛹になってから約2週間で羽化すると言われていますが、これは日照時間や気温によっても大きく左右されます。ですから、これよりも早くなることも、遅くなることもあるでしょう。実際に育てた人の話によると、気温が高ければ高いほど羽化の期間は短くなる傾向にあるそうです。
羽化が近付いてくるとだんだんと中が透けてくるようになり、これは羽化のサインです。見慣れた翅の色が蛹の中に折りたたまれた状態になっているように見えます。頭部の方から亀裂が入りのけぞるような形で成虫は姿を現しますが、まだ翅はシワシワです。
翅が乾ききるまでじっと大人しくしており、翅がピンと伸びると見慣れたアゲハ蝶の姿になっています。
アゲハ蝶の蛹が羽化した後
羽化した後、アゲハ蝶は風に乗ってゆらゆらと自由に空を舞っていきます。成虫になってからの寿命は約3週間と短く、残念なような気もします。しかしながら、食草の豊富なところにしか産卵しませんので、来年も同じ場所で見かけることができます。
我が家には、みかんの木があり毎年のようにアゲハ蝶が卵を産みにやって来ます。同じ場所にいくつも卵を産むのではなく、争いを避けるために1個ずつ場所を変えて産卵をしているようです。産卵するのはきまって新芽の上に、薄黄色の卵を見ることができます。
だんだんと成長するに従って鳥の糞のような見た目にビックリしますが、成虫とのギャップに心を奪われてしまう人がいるかもしれません。
まとめ
アゲハ蝶の幼虫は蛹になる前に、安全な場所を求めて移動することが分かりました。蛹になる前の段階を前蛹といい「く」の字のようなフォルムになります。前蛹から蛹になるまでは1日くらいで、12日前後で羽化すると言われています。
成虫になっても長くは生きられませんが、同じエサしか食べないため来年も子どもに合える可能性はあります。夏休みを利用して観察日記をつけようと思うのであれば、柑橘類の樹木を観察してみるのも面白いかもしれませんね。